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最高裁判所第一小法廷 昭和56年(オ)974号 判決

上告人

山口能弘

右訴訟代理人

太田晃

丸山隆寛

被上告人

福岡小型陸運株式会社

右代表者

坂田克己

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人丸山隆寛の上告理由について

原審が適法に確定した事実は、(1) 被上告会社の代表取締役であつた上告人は、昭和五二年九月ころ持病が悪化したので、被上告会社の業務から退き療養に専念するため、その有していた被上告会社の株式全部を被上告会社の取締役新道虎男に譲渡し、新道と代表取締役の地位を交替した、(2) そして新道は、経営陣の一新を図るため、同年一〇月三一日開催の臨時株主総会を招集し、右株主総会の決議により、原告を取締役から解任した、というのであり、右事実関係のもとにおいては、被上告会社による上告人の取締役の解任につき商法二五七条一項但書にいう正当な事由がないとはいえないとした原審の判断は、正当として是認することができる。原判決に所論の違法はなく、論旨は、ひつきよう、原判決を正解せず、又は独自の見解に基づいてこれを論難するものにすぎず、採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(中村治朗 団藤重光 藤﨑萬里 本山亨 谷口正孝)

上告代理人丸山隆寛の上告理由

一、原判決は、上告人の商法二五七条一項但書に基く損害賠償の請求について、

控訴人は、昭和五二年九月ころ持病の高血圧症、脳血栓に心筋障害も加わり病状が悪化したので、被控訴会社の業務から退き療養に専念するため、その有していた被控訴会社の株式を被控訴会社の取締役新道虎男に譲渡し、右新道と代表取締役の地位を交替したこと、そして、新道は同年一〇月三一日の臨時株主総会において経営陣の一新を図り控訴人を取締役から解任したこと

がそれぞれ認められると事実認定をしたうえ、

被控訴会社が控訴人を取締役から解任したのは会社運営上しごく当然のことであつてなんら非難すべき事由は存在しない

として原告の請求を棄却した。

二、ところで、商法二五七条一項によれば、株式会社は株主総会決議によつて何時にても取締役を解任することが許される反面、もしその取締役が任期の定ある取締役であり、かつ任期満了前に解任する場合には、解任に「正当事由」がないかぎり取締役に対し解任による損害を賠償しなければならない、とされている。すなわち、株式会社は、ただ株主総会の決議という形式的要件さえあれば、たとい任期の定ある取締役であつても、何らの実質的理由を要しないで解任することができる。一方、任期のある取締役は、任期満了までその地位にあることを期待するもので、あり、その期待もまた保護すべきものであるから、「正当事由」による解任の場合を除き、右期待を侵害されたことによる損害の賠償を株式会社に請求することができるのである。

三、とすれば、商法二五七条一項但書にいう「正当事由」とは、本人の意思に反してまでも取締役たる資格を剥奪し、かつ任期満了まで取締役としての地位にあることに対する本人の期待をも無視するに足る客観的な事由――例えば、取締役の非行や業務執行能力の著しい欠如など――と解すべきである。

四、原判決の前記認定事実によつては上告人を取締役から解任するについての「正当事由」を認めることができず、また、原判決のいう「取締役解任が会社運営上しごく当然」とか「会社に、解任について非難すべき事由がない」とかの点はいずれもいわば株式会社側の主観的事情に過ぎず、それだけで取締役解任についての「正当事由」ありとすることはできない。

五、結局、原判決の前記認定判断は、商法二五七条一項の解釈適用を誤つて法令に違背し、ひいて理由不備、審理不尽の違法をおかしたものである。

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